東京の街がどんどんきらびやかなショッピング街や高層アパート群に様変わりするなかで、まだアジアの香りを色濃く残すところがある。なかでもやはりアメ横が一番。軒を接する小店、ごたごたと積み上げられた商品、独特な売り声、そして国際色豊かな買い物客の群れ。タイやフィリピンの女の子は靴を買いに、ロシア水兵は陽気なイラン人の店でケバブを買い食いし、埼玉の女子中学生は安物ブランドコピーを買いあさる。アメ横は不滅のシルクロードの宿場町なのだ。いや、ひょっとしたらアジアのどこにでもある夜市かもしれない。(アメ横はアメリカ横丁あるいは飴屋横丁とも言われ、第二次大戦後の混乱期に繁盛した輸入品の闇市を前身とする)。
週末になると東京中のアジア人口がここアメ横に集まり、エキゾチックな極東アジアの必需品すべてが手に入るスーパーマーケットの様相を呈する。ここの専門店、肉屋、魚屋には、近所の店ではなかなか見つからない、豊かな品揃えのアジア食品がならぶ。市場に5軒ほどある大きな魚屋なら皮をむいたカエルから生きたカメまで何でもそろう。不気味な姿の貝類や原色の魚に目をみはり、鼻をつまむことになる。肉屋には豚の頭、サムゲタン・スープ用の鶏、韓国焼肉には欠かせぬ各種牛肉すなわちアキレス腱、肺のスライス肉(味噌によく合う)、辛い煮込みに使うモツやスジ。
スーパーマーケットには、アジアのほぼ全域をカバーするスパイス、ハーブ、調味料の専門店が6軒ほどある。あらゆる辛さと色のチリパウダーを揃えた店には、オレンジ色をしたスリランカのトウガラシから真っ赤な韓国のものまで並ぶが、見た目で辛さを判断したら大間違い。またここならクミン、シナモン・スティック、カレー用スパイスのすべてが大袋にはいって捨て値で買えるし、ビニール袋入りの生ハーブがふつうのスーパーでは考えられないような値段で売られている。料理に手間をかけたくない向きにはマレーシアのビーフ・レンダン調理済みソースもあるし、ベイジル添えタイ・チキン、インドのダル・カレーなどのほか、おいしそうなボンベイやバンコク製のレトルト食品もそろっている。
というわけで、アジアの香りを求めるなら飛行機に乗らずともJRに乗って上野のアメ横をめざせばよい。週末にはタガログ語、タイ語、バハサ・インドネシア語、ヒンズー語、広東語、イラン語の賑やかなさえずりのなかで日本語は肩身が狭い。
by リチャード・ジェフリー
by Richard Jeffery