東京が「食」に関して世界に通用する都市になったことを、例を挙げて証明したくなったら、シカダのような店を挙げるだけで十分です。この店の地中海料理はトップクラスで、斬新なアレンジがされているのに、どこかなつかしく、心が安らぎます。サービスも画一的でなく親しみが込められていて、トレンディな都心にシシリアの太陽が差し込んでくるようです。メニューにもワインリストにもうれしい驚きが詰まっていて、シカダで過ごす夕べは心ときめく食体験になること請け合いです。
まずメニューの構成をみても意欲的な基本姿勢が見えてきます。メニューはタパス・サイズの小皿料理から始まり、つぎにサラミやハム、そして通をもうならせるえり抜きのチーズセレクション(ヤギや羊の乳から作ったチーズなど種類豊富)に続きます。サラダの他にも、野菜中心のメニューがいくつかあります。といっても、とくにベジタリアン料理というわけではありません。オリーブオイルは香りの高いノンフィルターものを4カ国から揃えています(風味の解説は英語で書かれています)。
メニューには、スペイン、ポルトガルからモロッコ、ギリシャ、シシリーにいたる料理が網羅されています。日本にある西洋レストランでは、スパイスが控えめになっていることがよくありますが、この店の料理はほとんどにスパイスが使われています。たとえば、「カリフラワー、ミント、ペコリーノのツィーティ」や「そら豆、アーティチョーク、トマトのサフラン風味」は、ガーリックやスパイスが小気味よく利いています。「モロッコ風クラブケーキ」は、コリアンダーその他のハーブやピリッとしたソースでしっとりとこくがあり、どこのクラブケーキより最高に美味でした。モロッコ料理では、タジンも、ラム、チキン、魚介の3種類が用意され、デーツ、塩漬けレモン、オリーブ、クスクスなどと一緒にスパイシーに煮込んであります。
この店のシェフ(TYハーバー・ブルワリーで有名なデイヴィッド・シッド)は、食材を珍しい取り合わせで使いますが、無理な組み合わせでも、これ見よがしでもなく、ある意味ではごく自然にみえます。厚切りパルメザンチーズの上にベーコンにくるまれたデーツがのった一品や、ケーキと砕いたアーモンド、シロップ煮ミカンの取り合わせなど、ひらめきの感じられる組み合わせです。美味しいラムチョップのグリルもアンチョビーとローズマリーでさらに引き立っています。
しっかりした味付けの料理には同様に主張のあるワインが似合います。そして、この店のワインリストは期待を裏切りません。グラスで注文できるワインが20種類あまり、ボトルでは100種類以上が用意されており、5000円以下で素晴らしい掘り出し物があります。ワインはすべてオールドワールドで、リオハ(スペイン北東部)やラングドック・ルション(フランス南部)、シシリー、トスカナの厳選されたワインや十数種類のシェリー(ほとんどグラスで注文可)があります。ワインセラー自体がこのダイニングルームの中心になっており、気前のよいグラス注文方針は、時間をかけてこの深さを感じてくださいということのようです。