最近東京の街には本格的なタパスを供するスペイン料理店が急増しているが、あえて「マリスケリア」(シーフードにフォーカスしたスペインの居酒屋)と称しているスペイン料理店は神楽坂のエル プルポのみではないだろうか。この店では、小田原から直送されてくる新鮮な魚介類を使ったスペイン料理が堪能できる。
淡いオレンジ色を基調にした店内は、鮨屋を居抜きにしており、決して広い空間とは言えないが、スペインの港町のバールを思わせるアットホームな雰囲気が心地良い。テーブル席もよいが、やはりカウンター席で透明のガラスケースに美しくディスプレイされた、その日のお勧めの鮮魚を見ながらの食事が楽しい。
先ずは、売り切れになる前に、この店の名物料理、うにの殻付プリンと海の幸のフリット(海老、小イワシ、帆立貝のフライ)をオーダーすることをお勧めする。うにの殻をカップに見立て、クリーミーなプリン仕立てのうにが盛り付けられた一品は、何とも官能的な味わい。まろやかな食感は、うにが苦手な人をも虜にするのではないかと思われるほど美味である。海の幸のフリットの塩加減は絶妙だ。スペイン料理の技法を用いてはいるが、塩の使い方に日本人の繊細な感覚が感じられて嬉しい。この2品に続いて我々がオーダーしたサバのマリネは非常に個性的な風味。エキストラバージンのオリーブオイルでマリネしたサバをガスパチョ風味のソースと共に頂くと、青魚の旨みとトマトの甘み、酸味が微妙に混じり合い、一瞬味の迷宮に入り込んだような印象を受けるが、口中にはさわやかな余韻が残る。スペイン産のスパークリングワイン、カバ(グラスで500円〜)との相性はパーフェクトだ。
この店特製の釜揚げシラスも是非味わってもらいたい。卵黄と大振りなシラスを混ぜ合わせて、バケットとともに頂くこの一品は、魚のタルタルステーキとも称したくなるおもむきだ。シラスがかくもパワフルな一品に成り得るのは驚きである。今宵のディナーの締めくくりは、イカ墨のメロッソ。リゾットと異なり、お米の芯まで柔らかく調理されたメロッソは、まさにスペイン風のお粥。ニンニクとイカ墨が醸し出す芳香がたまらない。
エルプルポは、魚介類以外のメニューも充実している。秋にこの店を訪れるのならば、旬のきのことパンチェッタをソテーした一品は是非トライしてもらいたい。定番のスパニッシュオムレツもボリューム満点、カウンターにディスプレイされている巨大なハモンセラーノも申し分のない出来だ。チーズのセレクションは全てスペイン産で、他店ではお目にかかれない珍しい品種もある。ワインは、ほぼ全てスペイン産でボトルの価格帯は、2,800〜15,000円程度。野趣あふれる味わいの赤ワインは、カバと共にインパクトの強いシーフードには絶好の組み合わせである。ディナーの予算はドリンク込みで、1人5,000円〜6,000円程度。場所は、神楽坂を登り、中華料理店五十番を右折し、そのまま直進した左側。平日でもかなり込み合っているので、要予約。
by Hikaru Okabe